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坂牛邸と小樽  ― 坂牛邸の保存活動と小樽の建築的遺産について

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坂牛邸は昭和3年(1928年)施主・坂牛直太郎、建築家・田上義也によって建てられた和洋折衷の洋館で、小樽公園の風景と一体となった美しい景観を形成し、小樽市にとっても、かけがえのない文化的遺産と考えられます。
小樽の建築的特徴としましては、明治から昭和にかけての近代化の歴史が建物として数多く残っており、日本全国を見渡しても近代遺産がこれほど多く残っている地域は貴重です。

一方では持主の世代交代や用途としての役割を終えて利用されなくなり風雪や老朽化により傷みが激しく限界にきている建物も多数あり、早急に小樽市としても保存や再生を考える時期にきていると思います。

今回の坂牛邸は80年間大切に住まわれ手入れされてきた為竣工当時の姿をほとんど残しておりますが、持主の都合で残念ながら住むことが難しくなり、保存とその為の活用を考える目的で保存活動をスタートしました。
坂牛邸の保存再生活動を通して学ぶ多くの事が、小樽の大切な多くの他の建築的遺産の保存再生の可能性や実現につながると考えてます。

時代は近代化から高度成長の都市や国家としての激しい変化を経て成熟期を迎えています。
明治から昭和にかけて日本全体が大きく変わりましたが、ここにきて置き去りにし、あるいは忘れ失ってしまった地域の歴史や固有性の大切さが見直され、保存や再生の活動が全国、また世界で行われています。
グローバル化が叫ばれ情報化がすすみ、便利な生活が実現する一方で地域の個性や歴史のリアリティを求めて人々は旅をし、世界遺産をはじめ失われた価値や、人や都市のアイデンティティにふれ過去を学ぶ大切さが求められています。

そのような時代的背景をふまえ、今一度広い視野で他の都市が持ち得ない小樽の建築の魅力を見直す事が必要な時期にきていると思います。

日本の中でも有数な近代遺産を持つ小樽は、過去と現代が共存する景観都市を目指すべきで、その為の方法や指針と意識をしっかり官民一体になって確立することが大切です。
京都が京都として自立している事が小樽でも可能と考えます。
商業発展も大切ですが、現在の小樽は民間企業に委ね過ぎた偏った姿(一部の建物は歴史的モチーフをデフォルメし歪曲して商業化し品性を失っている)の観光地となっており、本来小樽がもっている質と違う環境になっていると思います。小樽を運河や硝子というピンポイントの点で捉えるだけではなく、様々な価値を線で結び面としての新しい魅力を多く考え作る事が必要であり、また求められていると思います。

再生・活用の方法や手法を十分検討し、小樽の建築的魅力が活性化につながることを考えたいと思っております。

(遠藤謙一良)

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